Saturday, April 19, 2014

UTMF直前補給対策セミナー by 齋藤通生氏(NeoDirection代表、ペスパ アスリートサービス)

(画像はTHE NORTH FACE FLIGHT TOKYOウェブサイトより)

 この1ヶ月間はUTMFが近付いているおかげで都内各所でUTMF/STYに向けての対策講座が目白押しです。私が参加しただけでも、3月25日(火)に御徒町のアートスポーツ・OD Box本店さんで行われた鏑木毅さんによる対策トークイベント(前編後編)、4月4日(金)に原宿の THE NORTH FACE PRESS ROOMにて行われたゴールドウイン三浦務さんによる対策ワークショップ(前編後編)、対策イベントではないですが、4月16日(水)に神保町のさかいやさんで行われた鏑木毅さんとiRunFar.comでお馴染みのBryon Powel、Meghan M. Hicksさん、そしてDogsorcaravan.comこと岩佐幸一さんで行われたトークイベントと、練習する暇もないくらい?イベントが続いていました。もちろんこれは一部で私が行けなかったイベントも多数あります・・・(トニー・クルピチカのイベントとかイベントとか・・・(涙))

 その中で鏑木さんの対策トークイベントと同じくらいためになった講座が、オシャレな丸の内にあるオシャレな店舗のTHE NORTH FACE FLIGHT TOKYOで4月11日(金)に行われた『UTMF直前補給対策セミナー』でした。ちなみにこのお店のスタッフさんは全員トレイルランナーで、去年のUTMF100位以内に入った凄腕ランナーの方もいらっしゃいます。是非丸の内に行った際にはお立ち寄りください。閑話休題。




 このセミナーではNeoDirection代表でペスパ アスリートサービスのベスパ斎藤こと齋藤 通生さんがUTMF/STYの補給対策に絞って話してくれました。単なるレースのためではなく、今後のラン人生にとって示唆に富んだセミナーでした。

 配られたレジュメのタイトルは『UTMF、STYの準備と補給』



 完走を目指す場合、コースを平均時速4km+のスピードで46時間(あるいは24時間)移動し続けることになります。レース中に必要な熱量を補給しながらのレース運びが大切なことであり。確実な補給無しにパフォーマンスを保つことは絶対にありえません。
 レースを想定した事前のカーボローディング、直前の食事、スタートからフィニッシュまでの補給、フィニッシュ後のリカバリーと順を追ってお話致します。                                 
                                                    -配布レジュメより引用-

 内容に入る前に、斎藤さんから完走に向けて大切なものとして次の3点があげられました。

  1. フィジカル:46時間耐えうる身体
  2. メンタル:絶対完走するぞという気持ち
  3. 健康状態と補給:レース時の補給だけではダメで、スタートする時の身体の状態が重要。50キロ以上のレースの場合はスタートの時点で疲弊しているとダメ。

 今回は補給についての説明でしたが、補給よりも身体をいかに健康な状態でレース当日にもっていけるかのほうが大切だと言う言葉が印象的でした。自社製品の宣伝もあるかと思ったのですがそんなことはなく、それよりももっと根本的な、山を走る、長距離を走るための心構えを教えられたように思います。
 以下、配布されたレジュメに当日取ったメモを織りまぜてまとめました。例によって録音していたわけではありませんので間違いや、聞き逃しているところもあるかと思いますがご容赦ください。少しでもUTMFやSTYに出られる方の参考になれば幸いです。




1)リハビリテーションと装備のチェック


 個体差はありますが、ハードトレーニングを課した身体は満身創痍になっていると考えられます。筋肉痛の痛みが去っていくと、ほとんどのアスリートは回復したと思いがちです。しかし、酷使した内臓疲労は筋肉が回復する時間の2倍かかるとされています。
 もう一つ重要なのは装備の準備です。必要頻度に応じた的確なパッキング、各レッグに必要な補給物の整理など、事前の準備はかなり煩雑です。

 アイアンマンレースを終えた人の80%近くが肝硬変に近いくらいの状態になっています。それくらい長距離レースは内蔵に負荷がたまります。重要なのはレース開始前に筋肉と内臓を元の状態に戻し、できるだけ健康な状態でレースにのぞむことです。
 これからの2週間で内臓疲労を取るには、①睡眠をしっかり取る(8時間以上)、②22時〜24時にできるだけゆっくりする。③血流を良くする(暇があったら横になり、なるべく身体を水平に保つ)。レース前の食事も、炭水化物:蛋白質:脂肪を40:30:30というマフェトン理論の比率で。よく噛むことも重要。 また植物油などの不飽和脂肪を積極的にとり、加熱した油やマーガリンなどの摂取は極力避けてください。また、10日間の完全休養を取りましょう。10日間が長すぎると思う人であっても最低7日間はレストしてください。

 装備の準備についても、レースの1週間前には準備OKとなるようにしましょう。レース会場のエキスポでは忘れ物だけを買い足すつもりでいてください。レースの2〜3日前にはパッキングを終えていることが理想です。つまり装備の心配はレース前になるべく頭から除くことが重要です。

2)カーボローディング


 カーボローディングとは炭水化物を中心に摂取し(タンパク質を控え、いつもより20%〜50%炭水化物を多くする)、運動に必要な約2000kcalのグリコーゲンを体内蓄積するために行う行為で、レース前最低24時間(UTMFの場合は48時間)行うことが基本となります。スタート時の蓄積エネルギーの量が、レース距離が長くなるほどパフォーマンスの差として出てしまいます
 そしてカーボローディング時にもうひとつ重要なことは、繊維質(動物性、植物性)と、動物性脂肪の摂取を控える事です(動物性脂肪とは冷やすと固まる油のこと。オリーブオイルやココナッツオイルなどのオメガ3脂肪酸を代わりに摂取しましょう)。

 以前はカーボローディングと言えば72時間と言われていましたが、東洋人は西洋人と比べるとグリコーゲンを体内に蓄積しやすい体質のため、24〜48時間でOKです。UTMF/STYレベルの長距離レースだと、カーボローディングをやる、やらないでかなり差が出ます。

 控えるべき繊維質には野菜や肉が含まれています。体内に繊維があるとやがてガスが出て嘔吐したりジェルが食べられない原因にもなります。そうならないためにもレース前には繊維質をなるべく身体から出しておくことが重要です。
 

3)レース前の水分量チェック


 エネルギー以外にの補給も大変重要です。レースの話ではないですが、人間は食べ物は無くても最悪1ヶ月間生き残ることができますが、水は3日飲まないと死んでしまいます。レースでも脱水症状に陥らないように給水を計画的に行うことが大変重要です。脱水になると内臓の活動が弱くなりエネルギーの吸収ができなくなり、汗も止まり、結果熱中症となり、最終的には昏倒してしまいます。一度熱中症になるとレース中の回復は見込めず、そこでレースは終了です。

 自分自身の給水量をチェックすることは、レースに対してのリスクを減らす重要な準備です。身長、体重などの身体のボリュームにより給水量の差があります。これは練習時に自らの給水量を見出すことで解決するしか方法はありません。自分がどれくらい給水が必要かは、練習で走る前と後で体重を測り、体重の落差が3%を超えていたら給水量は足りません。体重の減少が1〜2%以内であればOKです。

4)スタートまでの補給


 カーボローディングにより体内に蓄積されたエネルギーを保持できるよう、スタート1時間前までエネルギーフードを少量摂取し続け体内のグリコーゲンが減り続けることがないように意識します。またスタート30分位前にジェルを1〜2本取り、少しでも多くのエネルギーを持ってスタートするという意識も大切です。

 具体的には、直前までのカーボローディングで2000kcalを貯めたとして、スタートまで+αのエネルギーを身体に入れ続け、タンクを満タンにして出発するようにしてください。人間は何もしなくても基礎代謝などで1時間につき、体重×4のカロリーを消費します。例えば体重が60kgの方の場合は1時間で240kcalが失われます。通常レースの3時間前に最後の食事を取ると思います。この食事の内容はカーボローディングと同じ内容のものが良いでしょう。これがレース終了までの最後のまともな食事となると思います。ただそこでしっかりグリコーゲンを貯めても、会場について3時間何も食べないとそれだけで720kcalが失われてしまいます。
 会場で動いて失うカロリーを補給するために、スタートまで少しずつ食べ続けてください。少量でいいので咀嚼し続けます。おにぎり、パワーバーなどでいいです。

 補給食についてですが、ジェル、グミ、バーで身体に吸収される時間が異なります。ジェルは15分、グミは1時間、パワーバーで1時間半〜2時間くらいかかります。おにぎりやバナナもパワーバーと同じくらいの時間で吸収されます。スタートの1時間〜30分前からは吸収効率を考慮するとジェルに変えたほうがいいでしょう。


5)ベスパの摂取タイミング


 まず、最初によくある誤解ですが、ベスパだけ摂取してもエネルギーにはなりません。ベスパは「ブースター」の役割を果たします。つまり身体の中にあるグリコーゲンの燃焼効率を良くするのです。

 スタート30分前にベスパ・プロ1パックを糖質と共に摂取することでグリコーゲンの燃焼効率を向上され、体脂肪の代謝を促進します。そして運動中の血糖値を安定した状態に維持することができます。ベスパの持続時間は約2〜3時間です。その時間を超えるような場合は、2〜3時間経過毎に軽量のハイパーを水とともに摂取することがベストです。
 また、激しい登りが始まる30分前に飲むのもかなり有効です。

6)レース中のカロリー補給


 自分がスタートしてからフィニッシュまでかかる時間を設定し消費カロリーを計算します。算出したカロリー数から1500kcalを引き、足りないカロリーをレース中に摂取することが補給という行為です。
 レースという特殊な環境においては、内臓のトラブルなどを最小限に抑えることがパフォーマンスアップに繋がります。行動中はジェルによるエネルギー補給になれることが基本です。
 ジェル(水分)だけでは腹がへるという話もよく聞きます。胃は食べ物が入らず水だけだとパイプみたいに縮まり、飢餓感のサインが出ます。その結果お腹が空く、ということになります。これを防ぐには胃を収縮させないように、少量の固形未消化物(グミや小さく切ったカロリーバーなど)を胃の中に残し続けることです。

 カロリー摂取のタイミングは、スピードではなく時間で計算してください。自分が何時間でゴールする予定なのかをまず予測します。運動中の消費カロリーは「体重の8倍〜10倍」程度です。例えば体重70kgの人がまあまあのペースで走る場合、1時間で消費するカロリーは最大で700kcalとなります。STYを10時間でゴールする予定だと、10時間で7000kcal消費することになります。カーボローディングで2000kcalが体内にあるとして、そこから1500kcalを引くと、5500kcalとなり、この5500kcalをレース中に摂取する必要があります。1時間では550kcal摂取となります。ジェルでカロリーを取る場合、約4本で450kcalになるので、15分に1本の割合で摂取する計算になります。


7)レース中のミネラル補給


 エネルギー摂取と同様に大切なのが、ナトリウム(塩分)のこまめな補給です。しかし給水には脱水ともう一つの落とし穴があり、それは「低ナトリウム血症」と呼ばれているものです。簡単に言うと水の摂り過ぎです。その結果、めまい、痙攣、頭痛、方向感の喪失などの症状が出ます。残念ながら現在低ナトリウム血症を防ぐ方法は見つかっていません。
 レース中にナトリウムが足りていないという判断は、指が曲がらなくなるなった時などで、その時はナトリウム(電解質サプリ、塩熱サプリ)を4錠摂取すると15分で症状は収まります。また、ナトリウムが不足すると汗が吹き出てきます。いわゆる滝汗です。軽度の脱水症状です。このように汗がよく出るのであればナトリウム不足だと思ってください。
 摂取量の目安として、夏のトライアスロンレースでは20分〜30分に1回が最大量。ただこれも当たり前ですが個人差がありますので事前に自分で適量を確認してください。
 山本健一選手の場合は30分に1錠。日中では20分に1錠摂らせているがこれでもむくんでエイドに戻ってくることもあるので計算は難しいです。
 塩熱サプリはそのまま水で流しこむのではなく、噛み砕いて水で飲み込むのが一番吸収されます。
 水かスポーツドリンクかということではどちらでも水分補給としてはOK。ただしスポーツドリンクの場合は薄めて飲んでください。ナトリウムの摂取もスポーツドリンクと飲む問は少し減らしてください。

8)リカバリー


 まずはフィニッシュ後30分以内に出来るだけ吸収の良いプロテインなどを摂取すること、同時に糖質(炭水化物(おにぎり、バナナ)+アミノ酸)をとっておくと筋肉の蘇生を促進します。レース終了日の就寝1時間前にも同じ摂取をするのが最良です。
 レース後は約6時間くらい筋肉は燃焼し続けます。翌日の朝までエネルギーを摂り続けないとレース後にハンガーノックになることもあります。

質疑応答


Q. カーボローディング時には繊維質の摂取を抑えるということですが、レース中の摂取はどうでしょうか?
A. エイドステーションで繊維質のものがあったら軽く食べる程度であればOKです。

Q. レース中の補給のタイミングについてもう少し教えてください。
A. 補給のタイミングはお腹が空いてからでは遅すぎます。上記の例で450kcalを毎時間摂る(15分に1本)のですが、スタートからずっと同じピッチで補給を続けます。貯金し続けることが重要です。

Q. レース中に膝などが痛くなった場合、痛み止め薬を使用することは大丈夫ですか?
A. 痛み止めを使う前に、補給が足りているかをまずチェックしてください。ハンガーノックになりかけの時、身体は筋肉を破壊してアミノ化してエネルギーに変えます。いわゆる筋破壊ですが、これが痛みの原因ということも多いです。痛くなった時には本当に関節などの痛みなのか、ハンガーノックから来る痛みなのかを確認するようにしましょう。
 ロキソニンやバファリンなどの薬は胃腸にダメージを与えますし、後から致命傷になる可能もありますので薬を飲む前に補給することが先です。
 エネルギーが十分にあれば筋破壊も起きず、そのため筋肉痛はほとんど起きません。エネルギーがない状態でベスパなどを飲んでも意味はありません。一番有効なのは「米+水」です。

Q. レース中に補給の計算をするのは特に後半厳しいのですが・・・。
A. エイドからエイド間の補給計画を事前にしてください。エイド間毎に必要な補給物(時にはライトなども含め)をあらかじめジップロック に入れてザックに入れておきましょう。そうすると次のエイドまでに必要な補給物を考える必要もないので、ジップロックに入っているものを全部次のエイドに着く前に摂ることだけすればよくなります。途中のドロップバッグ(UTMFのみ)で全部入れ替えましょう。

Q. 胃の調子が悪くなった場合は?
A. ガスター20や30(強力な胃腸薬)を事前に病院で処方してもらって、気持ち悪くなる前に飲むのがいいでしょう。

Q. レース中の給水についてもう少し詳しく教えてください。
A. 水、スポーツドリンクはいいですが、お茶、コーヒーはハイドレーションパックに入れるのはやめましょう。水の飲み過ぎも注意です。頭痛、視野の交錯が起こり、最後に昏倒する事態になることもありますので自分の水量をしっかりチェックしてください。

Q. 脱水になってしまった時の対処方法は?
A. 経口補水液OS-1(オーエスワン)のドリンクを飲みましょう。脱水の時のサルベージではOS-1が最も効果があります。ただし、レース中、走っている時は吸収できないので良くないので注意してください。

Q.  ハンガーノックになった時の対処方法は?
A. まず、立てるまでは横になって休みましょう。その時ジェル一本をまるごと水で飲んでください。その後ジェルもう1本の半分を飲んで、残り半分を口の中に入れてゆっくり摂取してください。約30分で動けるようになると思いますので、その後はしっかりと定期的にエネルギー補給をしてください。

Q. ジェルや水は色々ありますがどれが良いとかはありますか?
A. ジェルやパワーバー、水など、どれも効果は同じです。セブンイレブンとファミリーマートのおにぎりの違い程度しかありません。自分の好きな味であることのほうが重要ですので当日は新しいものは他人の評価で選ぶのではなく、今まで摂取した中で好みの味のものを持っていくようにしてください。

Q. カフェインの使用のタイミングについて教えてください。
A. カフェインはナイトパート、精神的にダウンした時に使用するとキックされます。常効果を最大限引き出すためには、レースの24時間〜48時間でカフェイン抜きをしましょう。カフェインはコーヒー、コーラ、紅茶やガラナなどに入っています。に摂るのではなく、眠気を取る時などここぞという時に使いましょう。一番いいのは、ここで使う、という所をあらかじめ決めておくことです。
 ジェルにカフェインが入っているもの(ハニースティンガーショッツ )がありますが、1回につき2本摂るくらいがいいでしょう。カフェイン入りのクリフバー であれば1つでOKです。摂取後45分〜1時間後に効いてきます。その後4時間は効果が続くので夜中の2時に摂った場合、朝の6時まで効くことになります。
 コーラもよく使われますが、当たり前ですがダイエットコーラなどでは意味がなく、普通のコーラを飲んでください。その場合も1口含む程度で十分です。その後キック効果がありますが反面後でガクっと落ちますので注意が必要です。
 カフェインを摂っても眠たくなった場合は、グミなどを奥歯で噛みしめてください。
 カフェインはこのように使いどころを決めて使うと効果が高いですが、脱水効果や胃腸がダメージを受ける場合がありますので使う所をしっかり考えておいてください。

Q. 山で低体温症になった場合の対処方法は?
A. 腹巻きやインナーを一枚プラスするなどしかない。これを食べたらいいとかは残念ながらないので、とにかく暖かいウェアリングをすることが重要です。

Q. 心拍数と補給の関係は?
A. 最大心拍数の7割で走れると補給効率はよくなります。その心拍だと身体がエンデュランスモードになります。ちなみにUTMF/STYのようなエンデュランススポーツにおいて、一度落ちた体力が戻ることは一切ありません。消耗戦なので、最初にどれだけしっかり健康な身体でスタートできるかが全てです。


 セミナーの最後に、「UTMFやSTYはゴールしないと辛いだけでな~んにも楽しくないですよ!だからコンディションを整えて万全の状態でレースをスタートできるようにしてくださいね。」と齋藤さん。私の場合はまず先日のハセツネ30Kでやってしまった右足首の捻挫を治して万全になるべく近づけてスタートしたいと思います!

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