Thursday, March 27, 2014

【後編】鏑木毅さんによるUTMF&STY対策トークイベント@アートスポーツ・ODBOX本店


前回のお話

 前回は2014年3月25日(火)の18:30~20:00にアートスポーツ・ODBOX本店で行われた鏑木毅さんによる2014年UTMF & STY対策トークイベントの前半部分、コースマップと標高図を見ながら行われたポイント解説の様子をお伝えいたしました。UTMFのコースを試走するどころか現地に行ったこともなかった私にとっては具体的にレース展開がイメージできて大変参考になりました。

 前回について詳しくはこちらからお読みください。

UTMF攻略のポイント

 今回はそのトークイベントの後半部分、鏑木さんによるUTMF攻略のポイントについて紹介させていただきます。

①トレーニング&準備編

◯3週間前までが勝負

 3週間前までに、「ロングトレイル」を、「できれば2日連続」で行えればベスト。
ただし、UTMFのコースは現在まだ雪が残っていたりして危険なので試走はできればしないほうが良い。今からロングトレイルを行うのであればUTMFのコースの代わりに、「伊豆(ITJ)コース」、「箱根外輪山コース」がおすすめです。「ロングトレイル」の「ロング」の時間がどれくらいかというと、1日目は6時間〜8時間連続で走り続けるくらい。2日目は5〜6時間でOKです。

◯レース計画の策定

 自分がどのくらいのタイムで各エイドステーションに行けるかを、コースマップや標高図とにらめっこしながら事前に計算しておくと良いです。これは実際に走る前にコースを頭に叩き込むためにも必要な作業です。

◯装備準備は1週間前までに

 UTMFは必携装備品が多いので、レース本番の1週間前までには余裕を持って準備を終えておくのが良いでしょう。できれば事前に本番でパッキングするものを全部詰め込んで走ってください。事前に背負って走ることでパッキングの微調整(肩や腰のストラップ調整など)を本番前にすることができます。

②レースマネジメント編

◯装備 

  • 雪対策:今年の大雪の影響はまだトレイルに残っており、4月後半とはいえ、UTMFレース当日までにどのような状態になるのか現時点では分かりません。トレイルに雪がある程度残っていることを前提に準備しておいたほうが良いでしょう。具体的には、溶けかけた雪の上を走ることでシューズが濡れてしまうことなどが懸念されます。濡れたままの状態で走ってしまうと、体温の低下を招いてしまいます。そうならないためにも当日の状況を見ながら、ゴアテックスを使用した「防水シューズ」 や、「防水ゲイター」 を使用しましょう。
  • 当日の天候確認:UTMFの場合、レース3日間の天候をしっかり予測、確認して頭にいれておくことが重要。幸いにも過去2回の大会では天候に恵まれたので、今年もそうだと思うかもしれませんが、大雨になる可能性もあります。夜の山で大雨になった場合、かなり気温も下がり、相当厳しいレースになるでしょう。そういったことも想定しておく必要があります。もし荒れることが予測されるのであれば、ドロップバッグで着替えやシューズを用意するなど、雨への対策は必要不可欠です。
  • ドロップバッグがポイント:上記にもつながりますが、当日の天候に合わせて補給食以外に必要に応じて着替えなどをしっかりと準備することが大切です。
  • ストックなし:去年までの大会と大きく異なる点ですので注意が必要です。自然保護、トレイル保護の観点から、今年からはストックは一切使用禁止になりました。ストックが使えないので、難易度はさらに上がることになります。前半部分のまだ足が残っている時から無理に登りで足の筋力のみでグイグイ行かず、手で膝を押してストック代わりとするなどの対策を取りましょう。前半〜中盤で過度に足の筋力を使うことは避けるようにしてください。

◯補給

  • やはり基本はジェル:UTMFでは「11か所」のエイドステーションがあり、それぞれで補給食を提供しますが、それに頼りすぎてはダメです。必ずジェルを必要数持ってきて、しっかりと各自のペースに合わせて摂取してください。鏑木さんクラスの)トップランナーであれば100マイルレースを走る場合、90分を過ぎてから、30分に1個のペースで摂取していけばいいですが、一般的なランナーであれば40分~45分毎に1個のペースでいいかと思います。ただし、これは個々人で異なりますので必ず自分やその日の体調、コース状況に合わせて摂取するようにしてください。
  • 温かいものを:100マイルレースなど長時間のレースでは疲れからや、寒さで胃腸が食べ物を受け付けなくなります。エイドでは率先して温かい物を食べるようにしてください。もしサポートクルーの方がいらっしゃる場合には、サーモスのステンレスボトル「お味噌汁」を入れて持ってきてもらったり、「塩気のきいたお粥」を作ってもらうと良いでしょう。塩気のきいたお粥は疲れた体に染み入ります。

○ペースコントロール

  • 序盤がカギ!:いかに後半に向けて足のダメージを少なくできるかが完走のコツです。そのためには、登りよりも下りパートに要注意!下りパートをどれだけ慎重に走れるかが重要です。前半では小さな疲労感であったとしてもそれが後半には大きな負担、ダメージにつながっていくことになります。100マイルレースですので、いつもの短めの練習ランのような下り方を本番でもしないように十分注意してください。少なくともA8西富士中学校」まで「足をためる」感覚で大事に足を使ってください。

③メンタルマネジメント編

  • 何故辛い?:辛く感じるのには様々な原因があります。主だった原因は以下の4点にまとめられるかと思います。

    1. 低血糖状態
    2. 疲労
    3. 眠さ
    4. 筋肉・関節トラブル


     100マイルという長距離レースでは、一旦精神的に落ち込んだり、調子が悪くなっても(適切な対応を行えば)必ずまたあがってきます。まずは冷静に、自分が落ちる状態になった原因を見極めることが重要です。その上で上記4つのいずれかが原因だと判断できた場合は以下の対処方法を試してみてください。

      低血糖状態⇒ジェルを摂取。
      疲労または眠さ⇒仮眠を取る。休むという判断も完走するためには必要です。
      筋肉・関節トラブル⇒重要なのはトラブルになる前の段階で処置を行うことです。トラブルに発展しないように、下りパートでのペースコントロールが重要になります。また、コンプレッションタイツテーピングを使用して未然に筋肉・関節トラブルを防ぐことも大切です。鏑木さん自身も2009年のUTMBではテーピングでしっかり固定ができず、かなり痛みが出てきて、後半はずっとなんで最初にしっかりとテーピングしなかったんだということばかり頭に浮かんできたようです(私も普段はコンプレッションタイツやテーピングはしない派なのですが、ちょっと今回ばかりは使用したほうがいいのでは・・・と鏑木さんのお話を聞いて思ってしまいました)。また、変調のシグナルを見逃さない、ということも重要です。痛みが出る前の、まだ違和感の間にストレッチするなどのケアを行いましょう。UTMFの場合は、ケアをしてくれるスタッフの方がいるエイドステーションもありますので、違和感を感じたらスタッフの方にしっかりケアしてもらいましょう。
  • 次のエイドに集中!:100kmを過ぎる頃になると、残りの60kmを走ることを考えると絶望しがちです。ですので、残りの全部の距離でレースを考えるのではなく、まずは次のエイドステーションに行くことに集中してください。次のエイドステーションに到着するまでやれることは何か、自分に問いかけ、そこに集中することが重要です。次のエイドステーションについたらそこで一息ついて、また次のエイドステーションまでの区間を頑張ろう、そして次のエイドについたらまたその次のエイドまで頑張ろう・・・ということの繰り返しで、行程をエイド間で細かく区切りながら前に進んでください
  • 楽しむ心を忘れない!:皆さんは何故誰に頼まれたわけでもないのに自ら進んでこんなとてつもなく大変なことに挑戦しようと思ったんでしょうか?間違いなく、レース中に「地獄とはこのようなものか!」と思う時がきます。ただ、困難な壁を乗り越えた時、今まで経験したことのない幸福感を感じることができるでしょう。そこではスタートする前とは異なる世界が見えていると思います。169kmの旅を終えて、河口湖八木崎公園に戻った自分は、今までの、走る前の自分とは違う自分になっていることに気付くでしょう。その自分に出会えることを楽しみに、辛さを乗り越えゴールを目指して頑張ってください。

④Q&A

 Q: 100マイルという長距離レースを完走するための秘訣は?
 A: セルフマネージメントがいかにできるかが重要。レース後半はメンタルコントロールが全てです。

 Q:サポートクルーは必要ですか?
 A: もしつけることができるのであればサポートはつけたほうがいいです。チームとして一緒に戦っているというメンタリティも生まれて頑張ることができます。サポートをつけることができる場合、携帯電話が通じる場所に来たらエイドに到着する前にクルーに電話して、次のエイドステーションで自分が何を必要としているかを的確に伝えてください。防寒具や着替えの準備、水やジェルの補充などです。中盤以降、エイドステーションに到着すると疲れから何もできずボーっと座ってしまったままになりがちですが、事前にどのようなサポートが必要かをクルーに伝えておけば、自分がそのような状態になっていたとしても、サポートクルーが自分に代わってしっかり準備してくれます。

 Q: テーピングは必要ですか?
 A: 重要です。特に中盤以降、自分の体を守ってくれます。慣れていないと最初は固められて走り辛いと思うこともあるかと思いますが、あるとないでは後半の走りが変わってきます。後は個人の好みですがコンプレッションタイツでもいいと思います。

 Q: レースに向けて準備がしっかりできなかった時の対策は?
 A: UTMFは4月後半のレースということもあり、シーズンとしてもまだ序盤ですので、準備不足でレースに臨む人も多いでしょう。完璧な状態でレースに臨めるということの方が少ないので、準備不足であってもその状況でできることをしっかり行い準備していくことが大切です。レーススケジュールも重要です。UTMBで3位になった2009年は、UTMBが開催される2か月前の6月終わりに米国でThe Western States 100-Mile Endurance Runに参加したのですが、間隔としてはちょうど良かった。反対に、UTMBで7位に終わった2011年は、その直前に出た50マイルレースの疲れがUTMBでも残ってしまい、レースに影響を与えてしまった。こういうこともあるので、目標とするレースを基軸に他のレーススケジュールを組むことが重要になります。

 Q: 防寒対策は?
 A: 特に夜、汗をかいたままエイドで休んでしまうと体温が急激に下がってしまうので、エイド毎にダウンジャケットを羽織るなど防寒対策をしっかりすることが大変重要になります。

 Q: ジェルを摂取するタイミングについてもう少し詳しく教えてください。
 A: 先ほどは40分~45分に1個と説明しましたが、登りのトレイルの状態など、エネルギー出力の具合を見て臨機応変にジェルを取るタイミングを調整してください(鏑木さんは2009年、2011年のUTMBの2回ともエネルギー切れ=ハンガーノックになったんですが、いずれも長い登りパートでハンガーノックになってしまったということで、長く続く登りの前に補給をするなど対策を講じたほうが良いということでした)。

 Q: レース中、ジェルがのどを通らなくなるのですが、対策はありますか?
 A: その場合、ジェル1個を一気に摂取するのではなく、5分くらいかけてゆっくり飲むようにしてください。また、夏のレースの場合は、ジェルフラスクに希釈して飲みやすくするなどしてください。また、温かいものを食べる、胃薬を常備するなど、胃腸をしっかりとケアすることも重要です。

 Q: レース中、筋肉や関節が痛くなってしまった後の対策はありますか?
 A: 足の前面部、大腿四頭筋などの筋肉の痛みであれば我慢して続けてもいいですが、靭帯や腱などの痛みは一度痛めてしまうと半年ほど治療にかかってしまうこともありますので、あまりに痛みが続くようでしたらレースをやめるという判断も重要です。筋肉の痛みと、靭帯、腱の痛みの違いは説明が難しいので、ご自分で経験するしかありません。


最後に

 昨日と今日とで前編後編に分けてお送りいたしました、アートスポーツ・ODBOX本店で3月25日に行われました鏑木さんによるUTMF & STY対策トークイベントのまとめ、いかがだったでしょうか?無料で一般公開されていたイベントだったということもあり、今年UTMFやSTYに参加するけどこのイベントに参加できなかった(もしくは来年以降チャレンジしたい)皆さんの参考になれば、と手書きメモと自分の記憶を元にまとめさせていただきました。録音していたわけではありませんので書き漏らしたり、聞き漏らしたりした箇所もあるかもしれませんが、重要な部分はお伝えできたのではないかと思っています。トークイベント当日はSTYよりUTMFに参加される方が多かったこともあり、解説もUTMF中心となっておりましたが、STYを走られる方にも共通する部分は多いのではと思います。

 残り1か月で今年のUTMF & STYが始まります。今年走られる皆さんはレースに向けて後悔の残らないよう、しっかり(無理せず!)準備して、当日はお祭りを楽しみましょう!私も今年UTMFに初参戦します。河口湖の会場やトレイルで皆さんとご一緒できるのを今から楽しみにしています!

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